横浜地方裁判所 平成9年(行ウ)20号 判決
原告
星野春男
被告
神奈川県相模原県税事務所長 可知教和
右訴訟代理人弁護士
福田恆二
右指定代理人
植野秀
同
武井政二
同
瀬尾鉄二
同
矢島裕久
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 地方税法七三条の七第一号は、「相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)に因る不動産の取得」については、不動産取得税を課することができないと規定しており、同号が、相続及びこれと同視しうる形式的な所有権の移転については、不動産取得税を課すべきでないとの趣旨によるものであることからすれば、「相続に因る不動産の取得」とは、不動産を包括遺贈により取得した場合及び相続人が被相続人から不動産を特定遺贈により取得した場合を意味し、相続人以外の者が、不動産を特定遺贈により取得した場合は含まれないと解される。
ところで、包括遺贈とは、財産の全部又はその一部を割合を示してする遺贈をいい、特定遺贈とは、目的とする財産を特定してした遺贈をいう。当該遺贈が包括遺贈か、特定遺贈かは、遺言者の意思解釈の問題に帰するが、遺言の解釈に当たっては、遺言書の文言を形式的に判断するのみでなく、遺言者の真意を探求すべきであり、殊に、遺言書が複数の条項から成る場合には、そのうちの特定の条項を解釈する場合でも、当該条項のみを切り離してその文言を形式的に解釈するだけでは不十分であり、遺言書の他の文言との関連や遺言書作成当時の事情等を勘案して、その趣旨を明らかにすべきである。
ところで、前記争いのない事実等に加え、〔証拠略〕によれば、本件遺言書作成の経緯等に関し、以下の事実が認められる。
亡忠男は、昭和四九年一一月二三日に死亡し、その遺産には、本件不動産のほかに、退職金等の現金があったが、遺産分割協議の結果、原告らは相続を放棄し、亡みちが右遺産のすべてを相続することとなった。
亡みちは、遺産分割により取得した本件不動産を自己の住居として、亡忠男の死後、平成七年八月一六日に死亡するまでの間、一人で居住していた。亡みちは、忠男の死後、遺族年金で生活しており、経済的には、特に不自由のない状態であったが、原告は、昭和五二年ころ、亡みちの住居の近所に転居し、しばしば、亡みちの住居を訪れ、話し相手となるなどしていた。他方、安正や和昭が、亡忠男の死後、亡みちの住居を訪れたことはほとんどなく、隆子も、亡みちとほとんど交渉がない状態であった。
亡みちは、昭和五二年ころ、原告に対し、隆子は自分が産んだ子ではなく、いわゆる私生児であるが、先夫との間の嫡出子として届出をしたものであると告げ、自分が死亡すれば、戸籍上、嫡出子とされている隆子が遺産をすべて相続することになるので、隆子に遺産を取得させない方法がないか、原告に相談をもちかけていた。また、亡みちは、原告らに遺産を相続させたいが、どのような方法によればよいか、原告に相談していたが、原告に本件不動産を承継させるということや、安正、和昭にどのような割合で遺産を承継させるかということについて、具体的な話はしていなかった。また、同じころ、亡みちは、原告に対し、自分が死亡したら墓参りは原告がしてほしいという話をしていた。
平成七年八月一六日に亡みちが死亡し、同年の九月末ころ、四九日の法要を終え、同年一〇月に、原告らが亡みちの身辺の整理をしていたところ、便箋に綴られた本件遺言書が発見され、その内容が、原告らに明らかになった。そこで、原告らは、同年一一月二一日、横浜家庭裁判所相模原支部において、右遺言書の検認を受けた。その後、隆子も、本件遺言書の内容を確認したが、これについて、特に意見を述べるなどしなかった。
原告は、本件遺言書の第二文の「地所、家は春男がとる」との条項に従い、本件不動産を取得することとし、遺言執行者として、本件不動産につき、平成七年一二月六日受付で、同年八月一六日遺贈を原因として所有権移転登記手続を経由した。
なお、亡みちの遺産としては、時価約六〇〇〇万円(相続税の修正申告書上の評価額は、約二五〇〇万円)の本件不動産のほかに、主たるものとして、銀行預金と郵便貯金の合計約七六〇〇万円、時価約五〇万円相当の株式、現金約一五〇万円があったが、原告らは、本件遺言に従い、これらの遺産について、遺産分割協議を行った結果、安正と和昭が、それぞれ二〇〇〇万円の現金又は預金を取得し、原告が、本件不動産を含むその余の遺産から相続税額を控除した残りを取得するとともに、亡みちの債務を承継するという内容の遺産分割協議が成立し、平成八年九月三〇日付けで、その旨の書面を作成した。
原告は、右協議内容に従い、右預金等の遺産の中から、事実上、自己が全額を負担することとした相続税約九〇〇万円を支払い、安正及び和昭にそれぞれ二〇〇〇万円を交付し、隆子、亡みちの妹とその子、亡みちの弟の子五名の計八名にそれぞれ一〇〇万円ずつ合計八〇〇万円を交付し、その残余から、葬儀費用、亡みちが未払いの固定資産税などを控除した現金約一〇〇〇万円を自らが取得した。
以上のとおりの事実が認められ、右によれば、亡みちは、法定相続人である隆子が、自分が産んだ子ではなく、事実上も疎遠となっていたことから、かねてより隆子には遺産を相続させたくないと考えており、原告らに遺産を承継させる方法がないか思案していたが、原告が、亡みちが住居としていた本件不動産の近所に転居して、しばしば、亡みちを訪れ、話し相手となるなどしていたことから、自分の死後、原告に墓所の管理を委ねるとともに、本件不動産を承継、維持させる意向で、本件遺言書を作成したものと推認される。
そうすると、本件遺言書の第一文は、亡みちが、法定相続人である隆子に遺産を相続させないために、原告らに遺産のすべてを包括遺贈したものであり、第二文は、原告に墓地の管理等を委ねるとともに、遺産のうち、本件不動産については、原告に取得させることとして、その限度で、遺産の分配方法を定め、その余については、特に原告らの取得割合を示さず、原告らに分配を委ねた趣旨と解すべきである。
被告は、第一文では、遺産についての原告らの取得割合が明示されていないのに対し、第二文では、原告に本件不動産を与える趣旨が明確にされているから、本件遺言は、原告に本件不動産を特定遺贈する趣旨と解すべきであるとする。
なるほど、複数の受遺者に対する包括遺贈は、受遺者間の取得割合を示してされることが多いが、受遺者間の取得割合が明示されない場合には、およそ包括遺贈としての効力が認められないとはいえず、そのような場合であっても、遺言書において、特定の財産ではなく、遺産の全部を当該複数の受遺者に与える旨の遺贈者の意思が明確にされている限り、包括遺贈としての効力を否定すべき理由はないというべきである。そして、この場合、民法の共有に関する規定(民法九九〇条、八九八条、二四九条以下)により、遺産についての持分や分割方法が定められることとなると解される。本件遺言書も、第一文で、原告らに遺産の全部を与える旨の亡みちの意思が明らかにされているのであるから、原告ら相互の取得割合が明示されていないからといって、包括遺贈としての効力が認められないとはいえない。
また、第二文で、「寺、地所、家は春男がとる」という表現が用いられていることからすれば、これを、本件不動産を原告に特定遺贈する旨の独立の条項とみるよりも、第一文で包括遺贈の対象とされた遺産のうち、原告に取得させる部分を特に明示したものと解するのが自然であり、文理に適うというべきである。仮に、第二文を、原告に本件不動産を特定遺贈する趣旨と解した場合、第一文は、亡みちの遺産のうち、本件不動産を除いた残りを、安正、和昭に包括遺贈する趣旨と解さざるを得ないが、第一文の文言からして、そのような解釈は、困難であるといわざるを得ない。被告の右主張は理由がない。
また、被告は、第一文を包括遺贈の趣旨と解した場合、原告らの遺産の取得割合は三分の一ずつと考えられるが、第二文に従い、原告が本件不動産を取得すると、原告の取得割合が、安正、和昭に比し著しく大きくなり、均衡を失するから、原告が主張するように、第二文を遺産分割方法を指定したものと解することはできないとする。
しかしながら、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法九九〇条)とはいえ、原告らは、いずれも亡みちの相続人ではないから、そもそも、亡みちの遺産について法定相続分を有せず、ただ、本件遺言書の第一文で原告らの取得割合が明示されていないことから、共有に関する民法二四九条により、原告らの持分が三分の一ずつと推定されることになるに過ぎない。このように、原告らが亡みちの遺産について、三分の一ずつの持分を有するといっても、それは法定相続分とは異なるから、本件において、遺産の分割方法の指定(原告らに法定相続分を観念しえない以上、第二文は、遺産の分割方法の指定には当たらず、いわば共有物の分割方法を指定したものというべきであるが)は、必ずしも、原告らの右推定持分割合に副うかたちでされることを要しないというべきである。したがって、本件遺言書の第二文に従って原告が本件不動産を取得した結果、前記認定の本件不動産の時価評価に従えば、原告の持分が三分の一を超え、安正、和昭の持分と均衡を失することになったとしても(なお、相続税の修正申告書によれば、亡みちの相続財産の価額は合計約一億円、本件不動産の価額は約二五〇〇万円とされている。)、そのことが、第二文の趣旨を前述のように解することの妨げとなるものではないというべきである。被告の右主張も理由がない。
二 結論
以上のとおりであり、原告は、本件不動産を包括遺贈により取得したものと認められるから、地方税法第七三条の七第一号の「相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)に因る不動産の取得」に当たるというべきところ、これを否定して被告がした本件賦課決定は、同号の解釈を誤った違法なものであり、取消しを免れない。
よって、原告の本件請求は理由があるのでこれを認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 近藤壽邦 近藤裕之)